best disk of the year 2018
2017年末のベスト以来の更新になってしまった。
続かないです、ほんとに。
とはいえ、1年を総括するこれはちゃんと続けていきます。では早速。
Snail Mail / Lush
アメリカはメリーランド出身の若干19歳、リンジー・ジョーダン率いるSnail Mailの1stフルレングスアルバム。本作は各紙のベストディスクでも絶賛されているし、初来日ツアーの東京公演が売り切れたことからも世界で注目されていることが窺えるが、僕も彼女たちに魅せられた一人。
90’sからの影響を感じさせるローファイサウンド、イノセントなアルペジオ、そこに乗る感情剥き出しのリンジーの歌声が交わり、いままでにないインディーロックを見せつけられた。
見に行った渋谷WWW X公演にてラスト曲「Static Buzz」を、それまでのバンド編成から一転、弾き語りで歌い上げるという演出があったんですが、そのときの説得力というかギュッと心を掴まれた感覚は、バンドサウンド好きの僕として稀有な体験だったし、リンジーが持つ魅力を再認識させられる出来事だったなと。
兎にも角にも本作を聴かなければ2018年のインディーシーンは語れないと思いますし、間違いなくこれからのマスターピースになる1枚であると確信してます。レコード好きな方は国内200枚限定のカラー盤を是非手に入れていただきたいですね。
Snail Mail - "Pristine" (Official Lyric Video)
Snail Mail - "Heat Wave" (Official Video)
Apple Music : Snail Mailの「Lush」をApple Musicで
The Beths / Future me Hates me
ニュージーランド出身の4人組、The Bethsのフルレングスアルバム。メンバー全員が大学でジャズを学んでいるということに驚いた記憶があるものの、緻密なコーラスワークや見事な曲構成や展開を考えると、確かな音楽理論や学識に裏打ちされた結果なのかと納得せざるを得ない。
アルバム冒頭からの上質なメロディーの連続にKOされそうになり、M-5「Not Running」の2:25からの展開で完全にぶちのめされます。何度聴いてもその場で踊り狂いたくなる。ライブで演奏されればきっとクラウドサーフせざるを得ない。まだまだ発展途上であるこのバンドから目が離せない。
The Beths - "Future Me Hates Me" (official music video)
Apple Music : The Bethsの「Future Me Hates Me」をApple Musicで
宇多田ヒカル / 初恋
言わずと知れた日本が誇る天才・宇多田ヒカルの通算7枚目、おおよそ1年ぶりのアルバム。
僕は小学校に通う頃から父が運転する車のカーステレオを通して彼女の音楽を耳にしてきたこともあり、長く聴いている分、思い入れもひとしおなわけですが、今作に関しては彼女の呼称として時折使われる「歌姫」という言葉に違和感を覚えざるを得ないわけです。5thアルバム「HEART STATION」の頃までは孤高な雰囲気が随所に感じられたのですが、人間活動からの復帰後、とりわけ今作に関してはグッとリスナーに歩み寄った印象を感じます。おかしな表現かもしれませんが、なんというか安心して聴けるのです。とはいえ、M-4「誓い」のビートには日本人離れしたリズム感を見せつけられたし、UKのラッパー・Jevon客演のM-6「Too Proud」はブラックミュージックとの親和性を再認識させられた気がします。
年明けにはSkrillexとの共作がリリースされるとのことで、来年も目が離せない。
KID FRESINO / ai qing
埼玉出身の24歳、KID FRESINOの3枚目のフルアルバム。
1st 「Horseman’s Scheme」 2nd「Conc.u.er」から、全編バンドサウンドで挑んだ「Salve - EP」を挟んだ今作は、バンド演奏によるトラックが全体の約半分を占めているわけで、恐らくこれは賛否両論あると思います。HIP HOPを深く知らない僕個人としては、違和感なく受け入れられました。タイトなビートをスチールパンが融解させて奥行きのあるサウンドに昇華させたM-1「Coincidence」は圧巻の一言。5lack客演のM-7「Fool me twice」はダンスミュージックの要素が感じられるし、なんというかフレシノなりの解釈で、現在の音楽シーンをヒップホップというフィルターを通して表現したのかなという風に感じました。それから、ISSUGI、鎮座DOPENESSをはじめ、客演がいい仕事をしているのも見過ごせいない点なわけですが、詩を朗読するようなエモーショナルなラップをC.O.S.A.と披露したM-11「Nothing is still」、Febbへの鎮魂歌とも解釈できるJJJ客演のM-12「Way too nice」には胸が熱くなった。続くM-13「Retarded」で締めるラストが非常に美しい。HIP HOPリスナー以外の人たちににも届いて欲しい名盤かと。
KID FRESINO - Coincidence (Official Music Video)
KID FRESINO - Retarded (Official Music Video)
Apple Music : KID FRESINOの「ai qing」をApple Musicで
5lack / KESHIKI
先に挙げたフレシノの新作と同日にリリースされ、両作をほぼ同タイミングで聴いたわけですが、新しさを感じさせる「ai qing」とは対極に位置する印象を持ちました。それは決して悪い意味ではなく、5lackのブレない姿勢を打ち付けた名盤ではないかと。今回挙げる10枚の中で最も繰り返し聴いたのは、もしかしたらこの作品かもしれない。もちろん5lackのフロウは魅力的だし、飽きのこないトラックもその一因ではあるものの、福岡という日本の中心である東京から距離を置いた場所で紡がれたリリックには、世の中を俯瞰した視点が織り交ぜられていてハッとさせられるポイントが多く見られた。決して豪華な客演とは言えない(KOHHの客演あり)中でのこの完成度は、やはり流石の一言ですし、フックのメロディセンスや韻の踏み方は別格な風格さえ感じさせる。これはクラシックアルバムになり得ると思ってます。
- DNS - 5lack ⚡︎ Beat by Fumitake Tamura
Apple Music : 5lackの「KESHIKI」をApple Musicで
GEZAN / Silence Will Speak
本年の日本のロックシーンで一番の問題作であり、最も聴かれるべき作品だと思ってます、GEZANの新作。
NirvanaやPixies、Superchunkの作品にエンジニアとして参加したスティーヴ・アルビニがプロデュースしたことでも話題になりましたよね。
僕の耳ではアルビニの仕事による影響は理解できないのですが、それ以前にGEZANというバンドの「現在」を凝縮したドキュメンタリーのような作品に仕上がっているのではないかと。CampanellaやSIMI LABのOMSBらが客演として参加しているのがHIP HOP好きとして嬉しいポイント。
暴力の様な、轟音の渦の様な音が冒頭から連続し、徐々に落ち着きを取り戻した先に待つ「Ambient Red」で飾るクライマックスがマジで美しいです。
今作はマヒトの叫びの多さが特徴ですが、素晴らしいメロディーを聴かせてくれるのもGEZANの魅力の1つなんで、そこにも注目して欲しいです。
ごちゃごちゃ言ってねえでマジで今すぐGEZANを聴け、と今年何度思ったことか。聞こえざる声に耳を傾けろ。
GEZAN / DNA (Official MUSIC Video)
GGEZAN -BODY ODD feat. CAMPANELLA, ハマジ, LOSS, カベヤシュウト, OMSB
Apple Music : GEZANの「Silence Will Speak」をApple Musicで
Hop Along / Bark Your Head Off, Dog
アメリカはフィラデルフィアのインディーロックバンド・Hop Alongの3rdアルバム。
1st、2nd共に好みな盤だった故に自ずと3rdに対するハードルが上がっていたわけですが、まあ楽々越えて行きました。何と言ってもメロディーが良い、その一言に尽きるんですね。
小難しいことはあまり用いていない様に聴こえるんですが、楽曲の良さが推進力となり胸にグッとくるわけです。紅一点のVo.フランシスのハスキー且つエモーショナルな歌声が琴線を刺激しまくるわけです。
声質的にGLIM SPANKYのフォロワーにも響くんじゃないか、という個人的見解はさておき、見逃せない一枚を是非。ジャケもグッドです。
Apple Music : Hop Alongの「Bark Your Head Off, Dog」をApple Musicで
88rising / Head in the Clouds
アジア発のメディアプラットフォーム「88rising」からリリースされたコンピレーションアルバム。
正直このアルバムは他の作品ほど聴き込めていないんですが、今年のアジアン・カルチャーの動きを考えると選ばざるを得ないわけです。
BTSのアメリカ進出に始まり、Superorganismの躍進、宇多田ヒカルが自身の楽曲に中国、ベトナム、韓国の若手ラッパーを起用した件など、アジア発のトピックスが途切れなかった2018年。もちろん内容も素晴らしく、トラップやR&B、ソウル、ポップスなどジャンルレス且つ上質な楽曲で彩られた約1時間は、欧米の音楽に引け目を感じさせない、僕らが生きるアジアを世界に誇れる様なそんな時間になるのではないかと。個人的にはアルバム名を冠したラストナンバー・M-17「Head in the Clouds」での締め括りがめちゃくちゃ好みでした。アナログ欲しい。
joji - Head in the Clouds ☁☁☁ (official music video)
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Viagra Boys / Street Worms
スウェーデンのガレージロックバンドのニューアルバム。
言わせてください、彼らにこれを選ばされたのが悔しくて仕方ないです、僕は。
バンド名、メンバーのヴィジュアル、歌の内容、どれもアウトですよ。SportsのMVを見てください。要約すると、腹の出たタトゥーだらけの男が上裸でスポーツの名前を絶叫するんですよ。しかもクソ低音で。
どこからどう見てもイかれてる。だけど2018年のベスト10です。やはり音がめちゃくちゃかっこいい、そして曲もいい。2018年にこのバランス感覚でやっているってのが最早奇跡だと思うんですね。
今のこの時代にこの音楽を叩きつけてきたViagra Boysに乾杯を。
Viagra Boys - Sports (Official Video)
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曽我部恵一 / ヘヴン
サニーデイ・サービスのボーカル・曽我部恵一のソロアルバム「ヘヴン」、そして驚くべきことに今作はヒップホップアルバム。
サニーデイ・サービスの2017年作「Popcorn Ballads」でのKID FRESINO、C.O.S.A.との共演、2018年作「The City」でのMARIA(SIMI LAB)との共演などで、曽我部さんの音楽がヒップホップとの親和性が高いことは既に示されていたけれど、まさか全編ヒップホップのアルバムを出すとはしてやられた。
内容はガッツリとバンドサウンドのトラックで固められていて、そこに曽我部さんのラップが乗ってくるわけだが、このラップが妙にクセになる。クールなフロウとは決して言えないし、韻の踏み方もなんというか不器用な感じがして、全体的にのっぺりとした気怠さみたいなものが漂っているんだけれど、どうやらそれが良いらしい。なんというか安心感があって、でもだらけ切らずほんの少しの緊張感があり、そのバランスが絶妙なわけ。
バンドとしてここまでキャリアを積んだ人が新しいことに挑んだその姿勢と、曽我部さんの絶えないクリエイティビティに敬意を表して。
Apple Music : 曽我部恵一の「ヘブン」をApple Musicで
以上2018年の10枚です。
いや、今年はマジで大変でした。20枚にしてしまおうかと何度思ったか。そして今年はガールズインディーが本当に豊富な1年でした。この流れが来年どうなるのかも非常に気になるところ。
聴く音楽のジャンルを広げると数が膨大な上に良作も多く、絞り込むのがキツイのなんの。ここに挙げた作品以外にも素晴らしい音楽とたくさん出会えた1年でした。来年も素敵な音楽にたくさん触れていきたい。
来年もよろしくお願いいたします!