何かをつくるということ
2019年のベストディスクを書かなければ、と思い続けて早4ヶ月が経ってしまった。
時間の流れとは恐ろしく早いものである。ぼやっとしていたらあっという間にジジイになってしまいそうだ。ジジイになることで得られるものもそれなりにあるだろうが、いまの感性で触れたいものがまだまだたくさんあるのだ。ゆったりと着実に歳を重ねたい。
最後の記事を書いてから1年以上が過ぎたが、生活に大きな変化はなく相変わらず現状に悶々とする日々の繰り返しである。種は少しずつ蒔いているが、果たして陽の目を見る日は来るのだろうか。
とは言え、ビートメイクという新しい趣味を始めて1年が経過した。そしてこれがとんでもなく面白い。偉大な音楽家たちに敬意を表しつつ中古レコードからサンプリングし、シーケンスを組み上げていく。そういう意味では自室で過ごす時間が増えたという変化はある。これはまあ、良くも悪くもあるだろう。
所謂大ネタなどは使わずに、ジャケットの雰囲気と年代を判断基準にしてレコードを選ぶ。誰も使ったことがなさそうなネタで首が振れるビートを作る。極端な話をすれば、この世にあるレコードの数だけビートが作れるのだから、奥の深さが尋常ではない。
一度始めるとトコトン突き詰めてしまう探究心と、一音一音の音の切れ目にまで拘る細かな性格が功を奏して、半日以上も平気でやってしまう始末である。
それから、元々なんでも1人でやりたい性分なため、純粋にビートメイクという行為に向いているのだとも思う。少なくとも17歳から10年続けたバンドよりも間違いなく相性がいい。何が起きるか分からない、人生とは面白いものだ。
さて、どうして1年以上も更新を絶っていた書き物に戻ってきたのかだが、先日友人に勧められた一本のライブ映像にひどく感銘を受けてしまったからである。
まずはこの映像を見て欲しい。
舐達麻 / FLOATIN' (Live Version) @新宿BLAZE 2019.12.19
舐達麻をご存知だろうか?
埼玉県熊谷をレペゼンするヒップホップクルーで、昨年リリースされた2ndアルバム「GODBREATH BUDDHACESS」がめちゃくちゃに良かった。
GREEN ASSASSIN DOLLAR、7SEEDSそれぞれがプロデュースした収録曲のビート全てが本当に素晴らしい。その柔らかくゆったりとしたビートに、メンバー3人がハードなリリックを乗せるのだが、そのバランスが抜群なのだ。
そしてこのライブ映像、冒頭でメンバーのBADSAIKUSHが語る言葉にモロに食らってしまった。
要約するとこんな感じだ。
自分の精神状態がどんな状況にあるが、それを何かに映し出す行為が芸術だと。
芸術という行為、つまり何かを表現するという行為を全ての人がやるべきだと。
それは「歌詞を書く」「小説を書く」「絵を描く」「映画を作る」はもちろんのこと、道路に絵を描くことだって芸術であり、誰でも金をかけずにできることだと。
何故それをやるべきか、それはネガティブな気持ちのまま誰かと接しても良いことなど無く、だからその負の感情を芸術に昇華して、それに真剣に向き合うこで自分が成長でき、その成長していくものが自分の自信に繋がり、それが誰かに評価されたとき最高な気分になれるのだと。
何一つとして反論の余地がない。
Twitterを始めとするSNSには匿名での誹謗中傷が溢れ返っている。
面と向かって物も言えない腰向けの連中たちが平気で人を傷つける。
突き刺した相手が命を絶って漸く自分が犯した行為の、その事の大きさに気付く。気付かない奴もいるだろう。馬鹿につける薬はないとは良く言ったものだ。
では何故そういった行動ができるのか。
それは、想像力の著しい欠如に依るものだと思う。
相手に対して思考を巡らせ、どんな言葉を使うべきか考え、選ぶ。
面識のない人を相手とする場合、ましてや言葉に温度を持たせられないSNSの場となれば、オフラインの世界で人と関わるときよりも、相手のことをたくさん考えなければいけないはずだ。
想像力を持ち合わせていないから、言葉の刃物を簡単に突き刺すことができる。
そしてこの想像力は、何かをつくること、即ち創造することによっても養わられるものだと俺は思うのだ。
何かをつくり出すとき、初めは必要なくても、創造することを続けていく中で、どこかのタイミングで必ず想像しなければならない瞬間が訪れる。
自分が創造するものを誰かに聴いて欲しい、誰かに読んで欲しい、誰かに見て欲しい、誰かに使って欲しい、そう感じたときに想像力無くして前には進めない。
だから俺は、何かをつくるという行為をみんながすべきだと思う。
誰かに苛立ったとしても、誰かを傷つけている時間などないはずだ。
創造に対して真剣に向き合えば向き合うほど、それが分かると思うのだ。
傷つけたり壊したりするより、つくる方がずっと困難で、だから尊い。
何かをつくり出そう。
best disk of the year 2018
2017年末のベスト以来の更新になってしまった。
続かないです、ほんとに。
とはいえ、1年を総括するこれはちゃんと続けていきます。では早速。
Snail Mail / Lush
アメリカはメリーランド出身の若干19歳、リンジー・ジョーダン率いるSnail Mailの1stフルレングスアルバム。本作は各紙のベストディスクでも絶賛されているし、初来日ツアーの東京公演が売り切れたことからも世界で注目されていることが窺えるが、僕も彼女たちに魅せられた一人。
90’sからの影響を感じさせるローファイサウンド、イノセントなアルペジオ、そこに乗る感情剥き出しのリンジーの歌声が交わり、いままでにないインディーロックを見せつけられた。
見に行った渋谷WWW X公演にてラスト曲「Static Buzz」を、それまでのバンド編成から一転、弾き語りで歌い上げるという演出があったんですが、そのときの説得力というかギュッと心を掴まれた感覚は、バンドサウンド好きの僕として稀有な体験だったし、リンジーが持つ魅力を再認識させられる出来事だったなと。
兎にも角にも本作を聴かなければ2018年のインディーシーンは語れないと思いますし、間違いなくこれからのマスターピースになる1枚であると確信してます。レコード好きな方は国内200枚限定のカラー盤を是非手に入れていただきたいですね。
Snail Mail - "Pristine" (Official Lyric Video)
Snail Mail - "Heat Wave" (Official Video)
Apple Music : Snail Mailの「Lush」をApple Musicで
The Beths / Future me Hates me
ニュージーランド出身の4人組、The Bethsのフルレングスアルバム。メンバー全員が大学でジャズを学んでいるということに驚いた記憶があるものの、緻密なコーラスワークや見事な曲構成や展開を考えると、確かな音楽理論や学識に裏打ちされた結果なのかと納得せざるを得ない。
アルバム冒頭からの上質なメロディーの連続にKOされそうになり、M-5「Not Running」の2:25からの展開で完全にぶちのめされます。何度聴いてもその場で踊り狂いたくなる。ライブで演奏されればきっとクラウドサーフせざるを得ない。まだまだ発展途上であるこのバンドから目が離せない。
The Beths - "Future Me Hates Me" (official music video)
Apple Music : The Bethsの「Future Me Hates Me」をApple Musicで
宇多田ヒカル / 初恋
言わずと知れた日本が誇る天才・宇多田ヒカルの通算7枚目、おおよそ1年ぶりのアルバム。
僕は小学校に通う頃から父が運転する車のカーステレオを通して彼女の音楽を耳にしてきたこともあり、長く聴いている分、思い入れもひとしおなわけですが、今作に関しては彼女の呼称として時折使われる「歌姫」という言葉に違和感を覚えざるを得ないわけです。5thアルバム「HEART STATION」の頃までは孤高な雰囲気が随所に感じられたのですが、人間活動からの復帰後、とりわけ今作に関してはグッとリスナーに歩み寄った印象を感じます。おかしな表現かもしれませんが、なんというか安心して聴けるのです。とはいえ、M-4「誓い」のビートには日本人離れしたリズム感を見せつけられたし、UKのラッパー・Jevon客演のM-6「Too Proud」はブラックミュージックとの親和性を再認識させられた気がします。
年明けにはSkrillexとの共作がリリースされるとのことで、来年も目が離せない。
KID FRESINO / ai qing
埼玉出身の24歳、KID FRESINOの3枚目のフルアルバム。
1st 「Horseman’s Scheme」 2nd「Conc.u.er」から、全編バンドサウンドで挑んだ「Salve - EP」を挟んだ今作は、バンド演奏によるトラックが全体の約半分を占めているわけで、恐らくこれは賛否両論あると思います。HIP HOPを深く知らない僕個人としては、違和感なく受け入れられました。タイトなビートをスチールパンが融解させて奥行きのあるサウンドに昇華させたM-1「Coincidence」は圧巻の一言。5lack客演のM-7「Fool me twice」はダンスミュージックの要素が感じられるし、なんというかフレシノなりの解釈で、現在の音楽シーンをヒップホップというフィルターを通して表現したのかなという風に感じました。それから、ISSUGI、鎮座DOPENESSをはじめ、客演がいい仕事をしているのも見過ごせいない点なわけですが、詩を朗読するようなエモーショナルなラップをC.O.S.A.と披露したM-11「Nothing is still」、Febbへの鎮魂歌とも解釈できるJJJ客演のM-12「Way too nice」には胸が熱くなった。続くM-13「Retarded」で締めるラストが非常に美しい。HIP HOPリスナー以外の人たちににも届いて欲しい名盤かと。
KID FRESINO - Coincidence (Official Music Video)
KID FRESINO - Retarded (Official Music Video)
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5lack / KESHIKI
先に挙げたフレシノの新作と同日にリリースされ、両作をほぼ同タイミングで聴いたわけですが、新しさを感じさせる「ai qing」とは対極に位置する印象を持ちました。それは決して悪い意味ではなく、5lackのブレない姿勢を打ち付けた名盤ではないかと。今回挙げる10枚の中で最も繰り返し聴いたのは、もしかしたらこの作品かもしれない。もちろん5lackのフロウは魅力的だし、飽きのこないトラックもその一因ではあるものの、福岡という日本の中心である東京から距離を置いた場所で紡がれたリリックには、世の中を俯瞰した視点が織り交ぜられていてハッとさせられるポイントが多く見られた。決して豪華な客演とは言えない(KOHHの客演あり)中でのこの完成度は、やはり流石の一言ですし、フックのメロディセンスや韻の踏み方は別格な風格さえ感じさせる。これはクラシックアルバムになり得ると思ってます。
- DNS - 5lack ⚡︎ Beat by Fumitake Tamura
Apple Music : 5lackの「KESHIKI」をApple Musicで
GEZAN / Silence Will Speak
本年の日本のロックシーンで一番の問題作であり、最も聴かれるべき作品だと思ってます、GEZANの新作。
NirvanaやPixies、Superchunkの作品にエンジニアとして参加したスティーヴ・アルビニがプロデュースしたことでも話題になりましたよね。
僕の耳ではアルビニの仕事による影響は理解できないのですが、それ以前にGEZANというバンドの「現在」を凝縮したドキュメンタリーのような作品に仕上がっているのではないかと。CampanellaやSIMI LABのOMSBらが客演として参加しているのがHIP HOP好きとして嬉しいポイント。
暴力の様な、轟音の渦の様な音が冒頭から連続し、徐々に落ち着きを取り戻した先に待つ「Ambient Red」で飾るクライマックスがマジで美しいです。
今作はマヒトの叫びの多さが特徴ですが、素晴らしいメロディーを聴かせてくれるのもGEZANの魅力の1つなんで、そこにも注目して欲しいです。
ごちゃごちゃ言ってねえでマジで今すぐGEZANを聴け、と今年何度思ったことか。聞こえざる声に耳を傾けろ。
GEZAN / DNA (Official MUSIC Video)
GGEZAN -BODY ODD feat. CAMPANELLA, ハマジ, LOSS, カベヤシュウト, OMSB
Apple Music : GEZANの「Silence Will Speak」をApple Musicで
Hop Along / Bark Your Head Off, Dog
アメリカはフィラデルフィアのインディーロックバンド・Hop Alongの3rdアルバム。
1st、2nd共に好みな盤だった故に自ずと3rdに対するハードルが上がっていたわけですが、まあ楽々越えて行きました。何と言ってもメロディーが良い、その一言に尽きるんですね。
小難しいことはあまり用いていない様に聴こえるんですが、楽曲の良さが推進力となり胸にグッとくるわけです。紅一点のVo.フランシスのハスキー且つエモーショナルな歌声が琴線を刺激しまくるわけです。
声質的にGLIM SPANKYのフォロワーにも響くんじゃないか、という個人的見解はさておき、見逃せない一枚を是非。ジャケもグッドです。
Apple Music : Hop Alongの「Bark Your Head Off, Dog」をApple Musicで
88rising / Head in the Clouds
アジア発のメディアプラットフォーム「88rising」からリリースされたコンピレーションアルバム。
正直このアルバムは他の作品ほど聴き込めていないんですが、今年のアジアン・カルチャーの動きを考えると選ばざるを得ないわけです。
BTSのアメリカ進出に始まり、Superorganismの躍進、宇多田ヒカルが自身の楽曲に中国、ベトナム、韓国の若手ラッパーを起用した件など、アジア発のトピックスが途切れなかった2018年。もちろん内容も素晴らしく、トラップやR&B、ソウル、ポップスなどジャンルレス且つ上質な楽曲で彩られた約1時間は、欧米の音楽に引け目を感じさせない、僕らが生きるアジアを世界に誇れる様なそんな時間になるのではないかと。個人的にはアルバム名を冠したラストナンバー・M-17「Head in the Clouds」での締め括りがめちゃくちゃ好みでした。アナログ欲しい。
joji - Head in the Clouds ☁☁☁ (official music video)
Apple Music : 88risingの「Head in the Clouds」をApple Musicで
Viagra Boys / Street Worms
スウェーデンのガレージロックバンドのニューアルバム。
言わせてください、彼らにこれを選ばされたのが悔しくて仕方ないです、僕は。
バンド名、メンバーのヴィジュアル、歌の内容、どれもアウトですよ。SportsのMVを見てください。要約すると、腹の出たタトゥーだらけの男が上裸でスポーツの名前を絶叫するんですよ。しかもクソ低音で。
どこからどう見てもイかれてる。だけど2018年のベスト10です。やはり音がめちゃくちゃかっこいい、そして曲もいい。2018年にこのバランス感覚でやっているってのが最早奇跡だと思うんですね。
今のこの時代にこの音楽を叩きつけてきたViagra Boysに乾杯を。
Viagra Boys - Sports (Official Video)
Apple Music : Viagra Boysの「Street Worms」をApple Musicで
曽我部恵一 / ヘヴン
サニーデイ・サービスのボーカル・曽我部恵一のソロアルバム「ヘヴン」、そして驚くべきことに今作はヒップホップアルバム。
サニーデイ・サービスの2017年作「Popcorn Ballads」でのKID FRESINO、C.O.S.A.との共演、2018年作「The City」でのMARIA(SIMI LAB)との共演などで、曽我部さんの音楽がヒップホップとの親和性が高いことは既に示されていたけれど、まさか全編ヒップホップのアルバムを出すとはしてやられた。
内容はガッツリとバンドサウンドのトラックで固められていて、そこに曽我部さんのラップが乗ってくるわけだが、このラップが妙にクセになる。クールなフロウとは決して言えないし、韻の踏み方もなんというか不器用な感じがして、全体的にのっぺりとした気怠さみたいなものが漂っているんだけれど、どうやらそれが良いらしい。なんというか安心感があって、でもだらけ切らずほんの少しの緊張感があり、そのバランスが絶妙なわけ。
バンドとしてここまでキャリアを積んだ人が新しいことに挑んだその姿勢と、曽我部さんの絶えないクリエイティビティに敬意を表して。
Apple Music : 曽我部恵一の「ヘブン」をApple Musicで
以上2018年の10枚です。
いや、今年はマジで大変でした。20枚にしてしまおうかと何度思ったか。そして今年はガールズインディーが本当に豊富な1年でした。この流れが来年どうなるのかも非常に気になるところ。
聴く音楽のジャンルを広げると数が膨大な上に良作も多く、絞り込むのがキツイのなんの。ここに挙げた作品以外にも素晴らしい音楽とたくさん出会えた1年でした。来年も素敵な音楽にたくさん触れていきたい。
来年もよろしくお願いいたします!
best disk of the year 2017
どうも。
2017年の10枚を選びました。
有名誌なんかのベストはだいたい50枚ですけど、そんなに提示されても聴く気起きないと思うんで、自分自身が今後も長く聴き続けるであろう最良なものだけにしました。
今年はいままでに比べて、かなり雑多な聴き方をした1年だったかなと。それでもやはり偏りがある。
独断と偏見と偏聴による10枚ですが、間違いはないので是非フィジカルで手に入れて欲しいですね。
LOSTAGE / In Dreams
ダントツで今年一番聴いたLOSTAGEの通算7枚目のフルアルバム。
流通に乗せない挑戦的な販売手法の話が先行してたけど、とにかく内容が素晴らしい。LOSTAGEは轟音ロックバンドっていうイメージが強いんですけど、今作は全体的に優しくて柔らかいです。もちろんLOSTAGE節炸裂な曲もあり、あっという間に聴き終わってしまう充実ぶり。聴く人に開かれている2017年必聴盤。
買える場所は、LOSTAGEライブ会場、奈良にあるTHROAT RECORDS実店舗とオンラインストアのみ。
LOSTAGE / ポケットの中で (Unofficial Video)
Sampha / Process
これがデビュー作ということに相当に驚いた記憶がある。
R&Bは全くと言っていいほど聴かないが、サンファにはR&Bに括り付けられない器の深さがあると思う。このジャンルの知識が乏しい俺でも、「これ新しいな」と感じざるを得なかったんで。今年のフジロックの映像でクラブミュージックっぽいサウンドが鳴っていたのも、音源では知り得ない彼の一面なのかも。
Sampha - (No One Knows Me) Like The Piano (Official Music Video)
Apple Music:https://itunes.apple.com/jp/album/process/1138217713
JJJ / HIKARI
俺にとって2017年はHIP-HOP元年でもあった。
昨年暮れに聴いたSTUTSのソロアルバムがきっかけでこのジャンルにようやく手を出せたわけ。聴いている範囲はまだまだ狭いけど、このアルバムの衝撃は凄かった。特に1曲目の『BABE feat. 鋼田テフロン』を聴いた時の脳天をガツンと殴られたようなあの感覚が忘れられない。トラックのクールさはもちろん、JJJの良さはリリックの「間」にあるんじゃないかと思っている。来年の活躍も楽しみだ。
Apple Music:https://itunes.apple.com/jp/album/hikari/1200444348
Hajk / Hajk
大阪の名店「FLAKE RECORDS」がCDの国内流通を請け負っているノルウェーのインディーロックバンド・Hajkのデビュー盤。一聴すれば店長のダワさんが推す理由がよく分かる。Phoenixあたりのルーツを感じさせる絶妙なポップス加減が堪らない。個人的に、今年リリースした『Willowbank』が相当に良かったYumi Zoumaとデッドヒートしてました。兎にも角にも北欧シーンの底力は凄いです。2018年に来日公演も決まっているみたいなので是非に。俺も観に行きます。
Hajk - Magazine (Official Video)
Apple Music:https://itunes.apple.com/jp/album/hajk/1193300402
Climb The Mind / チャンネル3
このバンドを知ったキッカケは名古屋のレコードショップ・Stiff Slackから前作『ほぞ』がアナログで再発されるというツイートだった。Stiff Slackは、エモ・ポストロック・ハードコア・ポストハードコアを中心に取り揃えたかなり独特な新品専門店。これまた去年の暮れに知った伝説のエモバンド・American Footballから繋がったわけなんだが、あまりにもセンスが良くて今となっては新川店長を信頼しきっている。
そんなStiff Slackレーベルからリリースされた今作は、歌を前面に押し出してきた6年前の前作『ほぞ』を更に深化させたような内容でありつつも、ドライブサウンドを耳にする回数が増えたことで過去作の懐かしさも感じさせる。もちろんクライム節は健在で、ギターリフのようなベースフレーズ、琴線に触れるギターのアルペジオ、Vo.山内さんの不器用ながらも身体の底から絞り出しているような歌、ジャパニーズエモの真髄を見せつけられる。これからクライムを聴く人には、『ほぞ』そして『チャンネル3』を併せて聴いてもらいたい。
Julien Baker / Turn Out the Lights
これまたStiff Slackがキッカケで知ったアメリカはテネシー出身の21歳。今年に入ってから聴いた1stの『Sprained Ankle』も相当に聴き込んだのだけれど、負けず劣らず抜群に良かったのが10月にリリースされたこの2nd。何故か女性Voに縁遠く、SSWも殆ど通らずここまで来たのだけれど、その道を開いてくれたのが彼女なんですね。「ギターと歌だけ」という潔いほどのシンプルさ、21歳とは思えない楽曲の奥深さ、そして最早叫びのような歌声にやられてしまった。10枚の中で最もアナログで聴いて欲しい一枚。こちらも年明け早々に来日公演が。もちろんチケット取ってあります。まじでオススメ。
Apple Music:https://itunes.apple.com/jp/album/turn-out-the-lights/1265246504
Mutemath / Play Dead
アメリカはニューオリンズ出身・Mutemathの5枚目のフルアルバム。
このバンドは過去作を全て聴いてきたのだけれど、これは間違いなく最高傑作。これまでは全体的にカラッとしたロックバンドという印象だったが、ここにきて良い意味で化けたなと。スタジアムとまでは行かずとも、野外フェスなんかでこの音を浴びたらブチ上がりそう。親日バンドらしいから是非来日して欲しい。
MUTEMATH - Hit Parade (Official Audio)
Apple Music:https://itunes.apple.com/jp/album/play-dead/1257022921
FKL / French Kiwi Juice
これまた今作がデビュー盤なFKJの一枚。
フレンチエレクトロ、フレンチポップっていうものらしいんだが、小難しい話は抜きにして最高な盤。一聴して今年のベストに決まった記憶がある。甘美なエレクトロサウンドに心地よいグルーヴ、ベッドルームミュージックでありつつも、なんというか休日の午前中にも聴いていたいそんな音楽。Youtubeに上がっている、一人で様々な楽器を演奏して楽曲制作をしている彼の動画があるのだけれど、凄まじいセンスに圧倒される。
FKJ - Tokyo (Red Bull Studios Impro)
Apple Music:https://itunes.apple.com/jp/album/french-kiwi-juice/1199108601
Able Baker Fox / Visions
インディーロックと一言で言ってもあまりにも幅が広いが、このAble Baker Foxはポストハードコアの系譜を継ぐ硬質なインディーロックバンドの類。全編を通して感じられる疾走感とマイナー雰囲気な曲調のバランス加減、純粋にかっこいいと思えるフレーズが随所に見られるし、ギターの歪み加減もドンピシャ。いいバンドに出会えて良かった。このアルバムを今年のベストに入れている人は他にいるんだろうかと思うくらい、情報が少ないのもまた一興。
ABLE BAKER FOX - Purple Mountains
Apple Music:https://itunes.apple.com/jp/album/visions/1256270783
King Krule / The OOZ
イギリスのSSW・アーチーマーシャルのKing Krule名義での2ndアルバム。
何度も何度も聴いて、その度に良くなり新しい発見があったし、23歳とは思えない渋めなボーカルと独特な歌唱法がどんどん癖になっていった。イギリス本国でめちゃめちゃ評価されていることなんて全く知らなかった。恥ずかしい。俺の耳ではディティールまで分からずとも、色々な音楽をグシャっとまとめて見事なまでに昇華させたということはよく分かる。たぶんロック、ジャズ、ダブステップとかそんなん。才能という才能を全身で浴びせられて圧倒されるんだけど、不思議な心地良さが余韻として残る。ブルージーな一枚。
Apple Music:https://itunes.apple.com/jp/album/the-ooz/1273304020
10枚まで絞るのにかなり悩んだ。
Jay Som、Shortstraw、Bully、Aiming for Enrike、Waxahatchee、Phoebe Bridgers、Prawn、8otto、Royal Blood、Day Wave、Formation、ギャラガー兄弟、土岐麻子、パッと思い付くだけでこんなに。実際にはまだまだ良かったのがたくさんあった。
今年は聴くだけじゃなく海外の音楽に現地で触れられた貴重な体験もできた。タイでは、現地で音楽活動する日本人の方やレコ屋の店長と話をしたり、実際にライブを見たり。つい先日も台湾のレコ屋を回ったりしたけど、来年も色々な国に行って見るつもり。
兎にも角にも1年を通して素晴らしい音楽にたくさん出会えた良い2017年だった。
2018年もフットワークを軽くしてどんどん攻め続ける。
今年1年お世話になった皆さま、本当にありがとうございました、来年も引き続きよろしくお願い致します!
フィジカルについて思うこと
CDやレコード、カセットテープを買いますか?
ユニオン、TSUTAYA、HMV、タワレコ、レコファン、町のレコードショップ。Amazonみたいなオンラインで買う人も少なく無いはず。そもそもCDなんて買わずに、YouTubeやストリーミングサービスで済ませている人の方が圧倒的多数かもしれない。僕もApple Musicを使っているけど凄く便利ですよね。気になったらすぐに聴けるし、取り扱っているアーティストも日々増えている。
それでも、僕はCDを買うしレコードも買う。収集欲が強いこともその一端かもしれないけど、最たる理由は好きな音楽を手元に置いておきたいから。極端な話をすると、音楽って形もなければ色も匂いもないですよね。ただ流れていくだけ。勿論、記憶には残るし気持ちを動かすことだって出来るけど、物体としては存在しない。そして、その欠点(敢えて欠点と言います)を補っているものこそがCDやレコード、カセットテープと言ったフィジカルだと思うんです。
その要素の一つがジャケット。音楽には不可欠ですよね。敢えてジャケを作成しないっていう方法もあると思いますが、楽曲とジャケットが1セットであることは絶対的なスタンダードです。アルバムの世界観を視覚的に表現できる数少ない手段であり、聴き手に強烈な印象を与えるもの。例えば、ある楽曲を聴いたときにその曲のジャケットをイメージしたことってありませんか?他には「この曲って色で例えるなら青だな」って思ったら実はジャケットが青を基調とするものだったり。それくらい重要な要素だと思うんです。
だけど、Apple Musicだってジャケットを見ることはできるし、Youtubeにアップロードされている音源の中にはご丁寧にジャケを表示させてくれるものだってある。ではジャケットにおけるフィジカルの良さは何か。それは『触れられる』というところにあると思います。通常のプラスチックケースかデジパック(紙の台紙にプラスチック製のCDトレーを乗せたやつ)か、なんていう違いもある。デジパックだと、光沢のある素材もあれば、サラサラしているもの、時には文字が浮き上がっているものもある。オンラインでは手の届かない裏面を見ることだってできるわけです。
ジャケット以外にも目を向けてみる。
CDであればディスクに何かが描かれているかもしれない。レコードならカラーヴァイナルなんていう特別仕様のものもある(通常は黒のものが圧倒的多数)。
歌詞カードは横書き?縦書き?それによって言葉の感じ方が変わることだってあり得る。よく聴いてきた曲の歌詞を初めて読んでみたら、イメージとは言葉の区切り方が違っていて「そういうことか!」なんていう新しい発見に至った人もいるんじゃないだろうか。歌詞検索サイトを見ればいいだとか言い出す人がいればそれはそれで結構です、そういう話をしているんじゃない。
クレジット欄にあなたの好きなアーティストやバンドの名前を見つけて、「どういう繋がりなんだ?」と調べ始めた結果、新しい世界を見ることができるかもしれない。
CDを取り出した裏側に仕掛けがあることだってあるし、帯の裏側にまで工夫を凝らしているものだってある。
パッと思い付くだけでもこんなに魅力がある。これらは作り手が意図してやっていることだと思っているし、楽曲とフィジカルが揃ってこその『作品』だと信じて止まない。
気になった作品を全てフィジカルで買わなくたっていいわけです。Apple MusicやSpotiryなんていう夢のようなサブスクリプションサービスが普及しているんだし、片っ端から聴いて本当に好きなものだけを買えばいい。便利なものはどんどん使って大企業の恩恵を受ければいい。法に触れていそうなアプリを使うよりよっぽどいい。
ということをこんなちっぽけなブログに書き綴ったところでCDの売り上げは落ち続けていくだろうし、レコードやカセットのブームだって一時的なもので終わってしまうかもしれない。まぁでもそれは仕方ないんだろうと最近は思います。それでもきっと僕の好きなバンドの人たちは、CDを買わずにいられないような素敵な作品を生み出してくれると思うので。
これを読んだ誰かが好きな作品をフィジカルで買ってくれたらいいなと思います。お店で作品を買って早く帰って聴きたくてウズウズするあの感覚や、フィルムを剥がして再生機に入れるときのあのドキドキを思い出して欲しいなと。
好きな音楽を手元に。
ではまた。
plentyの解散に寄せて
2017年9月16日(土)、plentyが解散してしまった。
僕は運良くチケットを手に入れることができたので、日比谷野音に彼等の最後を見届けに行ってきた。
指定席・立ち見席共にソールドしていた会場の雰囲気は、9月中旬とは思えない気温と、すぐそこまで近づいてきていた台風の影響も合間って、やはり普段のライブとは異なっているように感じた。三千人規模の群衆にも関わらず、妙な静けさがあったと思う。
演奏が始まってからは、とにかくひたすらに曲を重ねていた。Vo.江沼くんが「時間の許す限り曲をやります」と短く言っていた通り、MCもほとんど挟まずにただひたすらと。「ファンと、それから音楽に対してすごく真摯だな、いいな」とそう思った。
この日改めて感じたのだけれど、plentyは曲がいい。楽曲の構成は基本的にシンプルだし、演奏も所謂「技巧派」のようなものを取り入れている訳でもない。彼等の肝はやはりメロディーだと思う。とっつき易いようで棘があるし、ひんやりしているのに暖かさがある。静と動、陰と陽がある楽曲が魅力的なように、二面性を兼ね揃えられた音楽には強さがある。シンプルな楽曲構成や演奏も「曲の良さを極限まで引き出そうとした結果」だと捉えれば合点がいくし。
ラストナンバーは「蒼き日々」。plentyの良さを全部詰め込んだような躍動感に溢れる美しい曲。この曲でplentyが終わってしまうと分かっていたから、やっぱり予想通りに涙が出た。音楽は有限だからこそ素敵なのだと思うけれど、このままこのアウトロがずっと続けばいいのになと思わずには居られなかったし、江沼くんが笑うように歌っていて、余計に寂しさが込み上げてきた。本当に美しいフィナーレだったと思う。
よく考えてみると、好きなバンドの解散はplentyが初めてだった。好きなバンドっていうのは、新作の情報をチェックしたり、CDやレコードを買ったり、ライブに足を運んだりと、対象に向かって自分から動けるバンドのこと。「バンドの解散」はTwitterのTLで日々目撃する。だけど、所詮目にするだけ。好きでもないから「解散かー、残念だー」くらいにしか思わない。だけど、好きなバンドの解散がこんなにしんどいとは思わなかった。帰りの電車の中で「もうライブが見れない、新しい曲が聴けない」っていうことに気付いたときに、解散の重みを知った。家に帰ってからも、とにかく心がしんどい。今日でライブから3日経ったけど、ふと我に帰ったとき頭の中でplentyの曲が流れてる。それで気付いた、自分で思っているよりもずっと、俺はplentyが好きなのだと。それでもっと悲しくなる。書けば整理がつくかと思ってこれを書いているけど、どうなることか。
バンドは生き物だと言われる事がある。本当にその通りだ。バンドの命には必ず終わりがあって、でもそれがいつ来るのかは、きっと当のメンバー達にも分からない。「次のツアーで見ればいいや」、そう思ってしまったが故に、二度と見ることができなくなるかもしれない。少し重苦しいかもしれないけれど、僕たちリスナーもバンドに対して、「これで最後になってもいいように」と真摯に向き合うことが必要なのかもしれないと思った。
江沼くんの「さようなら!」が耳に残ってる。
さようならplenty、ありがとう。
タイでの1ヶ月生活-ライブ編-
どうも。
今年はフジだろって思ってたら、サマソニ周辺が意外と良くて嬉しい最近。特にソニックマニアがアツい。洋邦共にバランスいいよね。フォーメーションが特に楽しみ。
さて、タイでの音楽とのあれこれ、「タイでの1ヶ月生活ーレコ屋編ー」に引き続き、今回はライブ編。
ライブに足を運ぶことになったキッカケは、バンコクのレコ屋・bungkumhouse records。店長のゴーンさんにオススメしてもらったThe Eastbound Downersというバンドがすごく良かったんだけれども、このバンドは既に解散してしまっていた。ところがこのバンドのメンバーが別のバンドをやっていて、しかもレコ屋を訪れた日から1週間後に解散してしまうとの情報をゴーンさんが教えてくれた。これは行くしかないってことで、チェンマイ(タイ北部の都市)に行く予定を少し遅らせて、そのライブに行ってきたわけです。
バンド名は''Degaruda''。Youtubeで聴いてみるとゴリッゴリのハードコア。イーストハウンドより更に攻撃的なサウンドになってた。
ラストギグの会場は''Soy Sauce Bar''。「おいおい、ソイソースバーって(笑)」とはなったものの、会場自体は落ち着いた雰囲気の良さげな場所だった。ただ此処は名前の通り、アートギャラリーを兼ねたバーで、普段は絵画が展示されている空間でお酒が飲める場所。そう、ライブハウスじゃないんですよ。というよりも、タイにはライブハウスがないんですね。ライブをする場所はバーが多いみたいです。縦に長い会場で、フロアの広さは渋谷のO-Crestくらいだろうか。
次に驚いたのがチケット代。なんと200バーツ、日本円で600円ちょっと。儲ける気ないですね。ちなみにCDアルバムが1000円弱、Tシャツ一枚1000円弱。ライブ行ってCDとTシャツ買っても3000円出してお釣りが返ってくる。ちなみにチケット代と言ってもチケットはなくて、正確に言うと入場料。払った人は手の甲にマジックペンで✖️を書いてもらうんです。なんだかほっこりしてしまった。
イベントの概要としては、Degaruda含め8組くらいの出演者で構成されたちょっとしたフェスみたいな感じ。不思議だったのが、主催者でメインアクトでもあるDegarudaがトップバッターとトリの2回演奏していたこと。このパターン、日本では見たことがなくて新鮮だった。1回目の演奏は観客30名くらい。本人たちもリハ程度の感覚でやっていたように見えた。そこからはゲストの他アクトの演奏が続いていったんだけど、総じて言えることは楽曲のクオリティと演奏力の高さ。ほとんどのバンドが音源すら出していないことに驚いた。CD欲しいなと思うバンドも数組いたし。
気付くとラストのDegarudaに。トップバッターとして演奏したときとはまるで別のバンド。気迫と熱量がバンドの器に留り切れずに溢れ出して、フロアを呑み込んでいるように見えた。もちろん技術は変わらないはずなのに。人の心を揺らす音楽は魂の密度が高いんだということを体感できた。ライブが始まったときにスカスカだった会場は超満員。入りきらない人が表に溢れ出すくらいの集客でした。ここで驚いたことは、タイ国外の人たちの多さ。アメリカ、ヨーロッパ、中国、そして日本と多岐に渡ってた。あの光景にはグッときたな。
イーストハウンドの元メンバーの人と話したかったけど、Degarudaの誰なのか分からなかったから、とりあえずボーカルのDioさんに話しかけてみるとまさかの張本人。イーストハウンドのCDを見せると「マジかよ!ファッキンクレイジーだ!」と凄く喜んでくれた。一緒に写真を撮ってもらい、DegarudaのCDにサインまでしてくれた。優しくて気さくないい人だったよ。
それからもう一つ、 ライブ会場でたくさんの日本人の方々と会えたことが嬉しかった。10人ちょっとだったと思うんだけど、みんながお互いに顔見知りで一つのコミュニティーになってた。ほとんどの人がタイに住み、仕事をしながら音楽活動をしているとのこと。その内のお二人と仲良くなったんだけど、1人は去年まで日本のWeb音楽メディアを運営してたnakajimaさん。名前は伏せるけど、そこそこ音楽を掘り下げている人なら知ってるであろうデカいメディアです。そしてもう1人はタイでバンドをやっているギタリスト・岩元さんなんですが、そのバンドのドラマーはLOSTAGEタイツアーで現地コーディネイターを務めた方。岩元さんもLOSTAGEタイツアーの際にメンバーと飲んだらしい。凄すぎませんか?音楽が繋げてくれたことに、ただただ感動でした。nakajimaさん夫妻と岩元さんには、ベトナムからタイに戻った際に食事に連れていってくれたり、岩元さんと一緒にセッションさせてもらったりと凄くお世話になりました。本当にありがとうございました。
バー兼アートギャラリーでハードコアを鳴らしてる光景が最高にクールでした。場所を選ばず(正確には選べないけど)やれるところならどこでもやるっていう姿勢がいいなぁと。
つい先日、''AMRICAN HARDCORE''っていう80年代の米国におけるハードコアムーブメントをまとめたドキュメンタリー映画を見たんですが、まさにタイで感じたことがこの映画の内容でも描かれていました。やれるところがないなら、友達の家の裏庭だろうがバーだろうが何処でもやるんだっていう。
日本って東京はもちろん地方にもライブハウスがあって、良くも悪くも音楽をやる環境が整ってますよね。それを「日本は進んでる」「タイは遅れてる」と捉えることは簡単だけど、俺にはどっちが良いか判断することは出来ないなって思いました。少なくともこの日のライブで見たバンドの演奏は、何を歌っているかは分からなかったけど、しっかりと記憶に焼き付いてます。それは理屈じゃなくて、彼らの必死さや熱量に依るものだったと思うし、伝わってき易かったとも思う。音楽を表現する手段について考えさせられる貴重な体験になりました。
改めて、タイと音楽に乾杯を。
ではまた。
タイでの1ヶ月生活-レコ屋編-
どうも。
梅雨なのに雨が降らない日が続きますね。走ることを日課としている人間からすると非常にありがたい。
題名にタイという言葉がある通り、5月から1ヶ月と少しの間タイに行ってました(途中の1週間はベトナムにいた)。1泊700円以下のドミトリーに寝泊まりして、1食150円くらいの屋台メシを食べるっていう所謂貧乏旅ですね。好きな時間に起きて、腹が減ったら何か食べに街を歩いて、昼間っからビールを飲んでタバコ吸って、雨が降ればいつまでもベッドでゴロゴロして、眠くなったら寝るっていう、本能剥き出しの生活を。
タイの旅行記なんてものは、ググれば幾らでも転がってるんで書きません。書いたところで安メシ紹介ブログに成り下がるのが関の山だし。文章でまとめるのは、タイでの音楽との出会い。長くなりそうだから、レコ屋編とライブ編に分けて書いてみます。
そもそもタイに興味を持ったキッカケは、LOSTAGE Bass&Throatの五味岳久(以下:五味兄貴)のblogとInstagram。というのも、LOSTAGEは今年の2月にタイはバンコクで行われたCat Expoという音楽フェスに出演したんですね。ちなみにこのフェス、5万人規模のタイ最大級の音楽フェスみたい。写真で見る限りステージも結構な広さだったし。一昨年にはthe band apartも出演した模様。
そのフェスでの様子を逐一インスタに上げるんですよ五味兄貴が。写真からでも伝わってくるそのはしゃぎっぷりが可愛らしかったし、1日ごとに綴られるblogも活力に満ちていたし、そこで紹介されてた共演バンドがどれも良くて、単純に良さそうな国だなーと。その時は仕事してたし、すぐに行くことは出来なかったけど、同時期にタイ旅行をした友人の後日談を聞いてこれは行くしかないやろって。もともと3月末で当時の会社を辞める予定だったんで、今しかないってことで半ば勢いで行ってきました。なので目的を挙げるとすればタイの音楽に現地で触れること。
入国して5日目に早速レコ屋へ。現地のレコ屋については一応事前に調べておいたんですが、情報が少ないってのは元より、タイ語ばかりでそもそも分からない。どんなジャンルを扱っているのか、メインはレコードなのかCDなのか、それすら定かでないまま、店名とGoogle Mapだけが頼りでした。
それが「bungkumhouse records」。タイの中心部から少し離れた所在地、最寄駅はタイ高架鉄道BTSのEkkamai(エッカマイ)駅から徒歩10分程度。細い路地にある雑居ビルの4階で、この店の存在を知らなければ見つけることは難しいだろうなと感じました。でも、大々的に看板を出して「ここだよ!」って主張してるレコ屋より、こういうひっそりと佇むレコ屋の方が好き。いい音楽を揃えてるイメージもある。例えば名古屋のSTIFF SLACK、雰囲気だけでなく品揃え的にも近しいものがあった。
店内は結構狭め。ダブルベッド2台分くらい。10人客が入れば身動き取れなくなりそうだなって感じ。レコード9割、CD1割くらいのバランスで、総じてロックの比重高め。レコードに関しては特にインディー系が多い印象、とは言ってもビートルズからJAPANDROIDSの新作まで幅広く取り揃えている。CDについては、ほとんどがタイのバンド。CDをセロテープで壁に貼り付けてある辺りにタイらしさを感じざるを得ない。笑
気になったのは、事前に把握していた店名「1979 vinyl and unknown pleasures 」(以下:1979)と現在の店名が違っていたこと。Google Map上にも、1枚目の店外のぼり旗にも、上記の名前が記載されてた。レジに立っていた男性店員に聞いてみると、このお店は3年前に友人と2人で始めたこと、「1979」は開店当時の名前だったこと、その友人が辞めてしまい、1人で続けていくタイミングで現在の名前に変えたことを教えてくれた。つまり彼が店長のMr.Gone(ゴーンさん)。
日本から来たこと、そしてタイのロックバンドを知りたい旨を伝えると快諾してくれて、たくさんの曲を聴かせてくれた。タイ音楽の傾向としては、ポップからメタルまで、歌モノからインストまでと幅広く鳴ってはいるものの、インディー系、とりわけポストロックとシューゲーイザーが多数を占めているように感じた。タイで有名な日本のバンドがMONOとtoeだと教えてくれたけど、まさしくこの結果に結びついてる。最近はthe fin.が人気とのこと。ちなみにタイで最もポピュラーな日本人ミュージシャンは山下達郎らしく、特に「FOR YOU」というアルバムが有名で、彼も欲しいのだそう。「次タイに来るときはレコードを持ってきてくれ!交換しよう!」とまで言われた。笑 好きな日本のバンドを聞かれ、LOSTAGEだと答えるが知らない様子。2月に来ていたのになぁ。笑 アジカンは知ってるって言ってた。流石に知名度高い。
お客さんがいないので質問しまくる。
タイにおけるCD・レコードの現状。価格については日本円で新品CD約1,000円、新品レコード約4,500円。レコードがやたら高い。ただこれには、タイ国内にレコードのプレス工場がないという理由がある。元データを米国に送り、米国内のプレス工場にてレコードを製造、そこからタイへ輸入、というプロセスを経ているため、価格が跳ね上がるらしい。逆にCDは国内に製造工場があるためかなり安価。アルバム1枚1,000円なら比較的手が届きやすい。ところがどっこい、タイ人はレコードは愚かCDすら買わないらしく、原因はやはりYoutubeにあるみたい。これは日本の現状と変わらなくて歯痒い気持ちになったし、ゴーンさんの表情も些か暗かった。結局この日は3時間も居座らせてもらったが、その間の来客は僅か3人。それもタイ人ではなく欧米人ばかり。おかげでたくさん話すことができたんだけど。
このレコ屋を訪れて、異国の音楽に触れられたことは嬉しかったし大きな発見ではあったけど、何よりの喜びは母国語の異なる者同士でコミュニケーションが取れたことだった。もちろん、1ヶ月の旅の中で母国が違う人と会話をする機会はたくさんあった。旅の理由、仕事の話、家族のこと、恋人がいるかなんていう話までざっくばらんに。だけど、ゴーンさんと話した時間とその内容は、それらと比べられないほど大きく貴重なものだった。何故なら繋いでくれたものが音楽だったから。
これまで、レコードを買い、CDを買い、ライブに行き、ギター関連の機材を買い、スタジオに入りと、収入の多くを音楽に費やしてきた。Twitterは音楽の情報を仕入れる為にやってるようなものだし、暇さえあればレコ屋に足を運んでと、時間も音楽に注ぎ込んでいる。そんな生活をしていると、「自分は本当に音楽が好きなんだろうか?」「音楽が好きな自分が好きなんじゃないか?」、そんな疑問のような不安を抱く瞬間が何度となくあるわけ。だけどゴーンさんが、異国からの客人がしつこいくらいに質問しまくっても嫌な顔一つせずに、寧ろ嬉しそうに音楽を紹介してくれて、その曲たちを大きなスピーカーで聴いて、目が合うとお互い笑顔になってた。「音楽に国境は無い」なんていう言葉はクサいけど、良い音楽を共有しているその瞬間は、今いる場所が何処かなんて本当にどうでも良くて、ただその時間が堪らなく愛おしく素敵で涙が溢れそうになった。それまでの不安なんて吹き飛んでたな。音楽を好きでいてよかったって心から思った。
好みの音楽を伝えたくて「キーボードレス!」「シンセサイザーレス!」「タイトサウンド!」なんていう、咄嗟に出た陳腐極まりない言葉たちでも彼には伝わっていた。「好きなジャンルは?」っていう質問には「オルタナ!」「インディーロック!」、単語でも十分なんだ。ただ、「エモ(emo)」だけは何度言っても伝わらなかった。壁にOWENのCDが貼っ付けてあったから、思いっきり指差して「エモ!エモ!」って連発したら、「あ、イーモーね」って笑ってた。好きなジャンルの発音くらい覚えておくべきやな。
それから、ゴーンさんが勧めてくれた音楽がどれもセンス抜群。せっかくだから、その一部を紹介する。
Yellow Fang / แค่เพียง(7inch vinyl)
店に入って最初に手に取った一枚。ジャケットに惚れて聴かせてもらったけど、内容も素晴らしかった。タイ人ガールズスリーピースバンド。調べてみると、2012年、2013年と2年連続でサマソニに出演してる。ドリーミーな音に泣きメロがよく映えてる。ちなみにこの7inch Analogは、写真右下のステッカーにある通りこのお店のRECORD STORE DAY限定商品。いいタイミングに行ったなと思う。Youtubeにbungkumhouse recordsが音源をアップしてたし、Apple Musicでも聴けるから登録してる人は是非。英訳すると「Only」だそう。(by Google翻訳)
PANDA RECORDS 16TH ANNIVERSARY COMPILATION
タイのインディーズレーベル・PANDA RECORDSの16周年記念コンピ。このレーベルはかなりの名門らしく、お店にあったほとんどのタイバンドのCDがここから発売されていた。29曲も収録されているにも関わらず、日本円で約1,000円。これ儲けはあるんだろうか。その上レベルの高い楽曲ばかり、良い買い物。
Desktop Error / น้ำค้าง
「Nam Khang」と読むらしい。これはすごい。「タイのマイブラ」とも称されている5人組シューゲイザーバンド。ただ、貼り付けたMVの楽曲が収録されているアルバムを聴いてみると、シューゲオンリーという訳ではなく、ポップ全開の歌モノから、タイの伝統音楽に寄せているであろう楽曲まで非常に幅広く、彼らの懐の広さが感じられる。タイ国内で相当な人気があるようで、バンコクのレコ屋とCDショップを5〜6店舗回ったが、どこも売り切れだった。ところがどっこい、ディスクユニオンのオンラインで購入可能!まさかと思い調べてみると、2013年に来日している…。しかも、東京・大阪・京都を回るツアーまで敢行していた…。アンテナは常に全開にしておかねば。ちなみに日本語に訳すと「露」。
The Eastbound Downers / Broken Hearts & Paper Cuts
「俺が好きなのはキーボードレス!シンセサイザーレス!タイトサウンド!だ!」と喚き散らした後に聴かせてくれた僕の趣味どストライクな一枚。ゴーンさん凄すぎやろって震えたのを覚えてる。ハードコアっぽさを残しつつも、聴きやすくまとまっていて、一曲目で虜になってしまった。売り物じゃない彼の私物だったのに売ってくれた。嬉しいね。そしてこのCDとの出会いが次の「タイでの1ヶ月生活-ライブ編-」へと繋がっていく訳。
まとめると、bungkumhouse recordsは素晴らしいレコ屋でした。音楽愛に満ち溢れた店長・ゴーンさんに会うためだけでも行く価値があると思う。もちろん取り揃えられた音楽たちも素晴らしい。バンコクに行く機会があれば是非!以下に店の詳細を簡単に。
bungkumhouse records(旧店名:1979 vinyl and unknown pleasures)
住所:Google Mapへのリンクhttps://www.google.co.jp/maps/place/1979+vinyl+and+unknown+pleasures/@13.7301538,100.578487,17z/data=!3m1!4b1!4m5!3m4!1s0x30e29fac8466c28d:0x3e1f272d5be21226!8m2!3d13.7301486!4d100.5806757?hl=ja
営業時間:13:00~21:00 定休日:月曜日